
現在の戸籍だけでは判断できない理由
相続手続きで最初に行うべきことは、「誰が相続人になるのか」を確定することです。
ところが、相続人の範囲は現在の戸籍謄本だけでは分からない場合があります。
多くの方は、出生届や婚姻届、死亡届などを提出した経験はあっても、戸籍そのものを詳しく確認する機会はほとんどありません。
戸籍は私たちの人生に深く関わる制度ですが、日常生活ではあまり意識されない存在です。
そのため、
- 戸籍がどのように作られるのか
- 転籍によって何が変わるのか
- 戸籍からどこまで家族関係が分かるのか
をご存じない方も少なくありません。
しかし、相続では戸籍の理解が非常に重要になります。
昔の「バツイチ」は現在の戸籍で分かる?
以前は「バツイチ」「バツニ」という言葉がよく使われていました。
そのため、
「戸籍を見れば離婚歴はすぐに分かる」
と思われている方もいらっしゃいます。
しかし、現在の戸籍に「×」という記載はありません。
さらに、本籍地を変更する「転籍」をすると、新しい戸籍が編製されます。
その結果、現在の戸籍だけでは、過去の婚姻や離婚の経歴が読み取りにくくなることがあります。
もちろん、過去の戸籍の記録が消えるわけではありません。
しかし、現在の戸籍だけを見て、
「離婚歴はないだろう」
「子どももいないだろう」
と判断することはできません。
俗にいう「ネームロンダリング」と戸籍
俗に「ネームロンダリング」と呼ばれることがありますが、これは法律用語ではありません。
転籍によって新しい戸籍が作成されるため、現在の戸籍だけを見ると過去の経歴が見えにくくなることがあります。
そのため、
- 離婚歴
- 過去の戸籍の状況
- 以前の家族関係
などが現在戸籍だけでは把握できない場合があります。
もっとも、過去の戸籍が消滅するわけではありません。
除籍謄本や改製原戸籍などをたどることで、過去の身分関係を確認することができます。
ただし、
「現在の戸籍がきれいだから問題はない」
という考え方は危険です。
相続実務では、現在の戸籍だけではなく過去の戸籍も含めて確認することになります。
相続人の範囲を確定するために出生から死亡までの戸籍が必要になる
法務局では、相続人を確定するために被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍を確認する必要があると案内しています。 [houmukyoku.moj.go.jp]
なぜそこまで確認する必要があるのでしょうか。
それは、現在の戸籍だけでは確認できない家族関係が存在するからです。
例えば、
- 前妻との間の子
- 前夫との間の子
- 認知した子
- 養子
- 代襲相続人
などです。
これらの方も、法律上は相続人となる可能性があります。
前妻の子や認知した子も相続人になることがあります
実際の相続手続きでは、
- 前婚の子どもがいた
- 認知した子どもがいた
- 養子がいた
といった事実が戸籍調査によって判明することがあります。
いわゆる「隠れた相続人」が後から見つかるケースです。
仮にこれらの方を除外したまま遺産分割協議を行った場合、その協議が無効になる可能性があります。
相続人全員の参加がなければ、有効な遺産分割協議は成立しないからです。
そのため、相続人調査は相続手続きの中でも特に重要な作業といえます。
養子縁組が相続人の範囲に影響することもある
戸籍調査を進める中で、養子縁組が行われていたことが判明することがあります。
養子は法律上、実子と同様に相続人となります。
そのため、養子縁組の有無は相続人の範囲を確定するうえで重要なポイントです。
また、相続対策として養子縁組を検討される方もいらっしゃいます。
節税目的の養子縁組は認められるのか
「節税のために養子縁組?」
と聞いたことはありませんか?
この点について、最高裁判所は平成29年1月31日の判決で、
相続税の節税の動機と、養子縁組をする意思とは併存し得る
と判断しています。 [courts.go.jp]
そして、
専ら相続税の節税を目的として養子縁組を行った場合であっても、そのことだけで直ちに「当事者間に縁組をする意思がない」とはいえない
と判示しました。 [courts.go.jp]
つまり、
節税効果があることだけを理由に養子縁組が無効になるわけではありません。 [courts.go.jp]
もっとも、養子縁組には親子関係を創設するという重要な法律効果があります。
そのため、実際に養親と養子としての関係を築く意思があるかどうかは重要な判断要素となります。
参考判例:最高裁平成29年1月31日第三小法廷判決(平成28年(受)第1255号) [courts.go.jp]
戸籍は専門家と一緒に確認するのが安心
戸籍は身近な制度でありながら、その仕組みは決して簡単ではありません。
- 婚姻
- 離婚
- 養子縁組
- 転籍
- 戸籍改製
などによって戸籍は何度も作り変えられていきます。
だからこそ、相続人の範囲を判断する際には、
現在の戸籍だけではなく、被相続人の出生から死亡までの戸籍を確認することが重要です。
「誰が相続人なのか分からない」
「戸籍を取り寄せたが見方が分からない」
そのような場合は、専門家へ相談することで相続人の見落としや手続きのやり直しを防ぐことができます。
まとめ
相続手続きは、正確な相続人調査から始まります。
現在の戸籍だけでは、前婚の子どもや認知した子、養子などの存在を把握できない場合があります。
そのため、相続人の範囲を正確に確定するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍を確認することが不可欠です。
戸籍は普段の生活ではあまり意識しない制度ですが、相続では最も重要な資料の一つです。
現在の戸籍だけで判断するのではなく、過去の戸籍まで含めて確認することが、円満な相続への第一歩といえるでしょう。
当事務所では、戸籍の収集から相続人調査、法定相続情報一覧図の作成まで対応しております。相続人の範囲が分からない場合や、戸籍の読み方に不安がある場合は、お気軽にご相談ください。
参考資料
- 最高裁平成29年1月31日第三小法廷判決(平成28年(受)第1255号)
- 法務局「相続登記ガイドブック」
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