
身近な人が亡くなり、初めて相続手続きを経験する方の多くは、「まず何から始めればいいのだろう」と戸惑います。
預貯金の解約、不動産の名義変更、相続税の申告など、相続にはさまざまな手続きがあります。しかし、それらの多くで最初に必要となるのが戸籍の収集です。
「戸籍なら役所で取れば終わりでしょう」
そう思っていたものの、実際に集め始めると想像以上に時間と手間がかかることがあります。
相続手続きを進めるうえで、戸籍収集は最初の大きな壁かもしれません。
なぜ戸籍が必要なのか
相続手続きでは、大きく分けて二種類の戸籍が必要になります。
一つは亡くなった方(被相続人)の戸籍です。
もう一つは相続人の戸籍です。
どちらも重要ですが、取得する目的が異なります。
戸籍謄本と戸籍全部事項証明書は同じもの?
相続手続きについて調べていると、「戸籍謄本」という言葉を目にすることがあります。
一方、市区町村の窓口やホームページでは「戸籍全部事項証明書」と表記されていることが多く、別の書類だと思われる方もいらっしゃいます。
現在は戸籍が電子化されたことにより、「戸籍謄本」に相当する書類の正式名称は「戸籍全部事項証明書」となっています。
もっとも、一般の方には「戸籍謄本」という呼び方の方が馴染み深く、実務でも使われることがあります。
この記事では分かりやすさを優先し、「戸籍」や「戸籍謄本」という表現を使用しています。
被相続人の戸籍は「相続人を確定するため」
被相続人の戸籍は、誰が相続人になるのかを確認するために取得します。
相続手続きでは、通常、被相続人の出生から死亡までの戸籍を収集します。
現在の戸籍だけでは過去の婚姻や転籍、戸籍の改製などの経過が分からず、相続人を正確に確認できない場合があるためです。
金融機関や法務局は、この戸籍一式を確認して法定相続人を判断します。
そのため、相続手続きではまず被相続人の出生から死亡までの戸籍を揃えることが重要になります。
相続人の戸籍は「現在も相続人であることを証明するため」
一方、相続人の戸籍は、その人が現在も相続人であることを証明するために取得します。
被相続人の戸籍によって相続人が判明した後も、金融機関や法務局などの手続きでは、相続人自身の現在戸籍の提出を求められることが一般的です。
提出書類は手続き先によって異なりますが、被相続人の戸籍だけで完結するとは限りません。
戸籍は誰でも取得できるわけではない
戸籍は個人情報が記載された重要な書類のため、誰でも自由に取得できるわけではありません。
本人や配偶者、直系尊属(父母・祖父母など)、直系卑属(子・孫など)は、一定の範囲で戸籍を請求することができます。
また、相続手続きでは、自分が相続人であることを示しながら被相続人の戸籍を請求することになります。
兄弟姉妹が相続人となる場合には、自分と被相続人との関係が分かる資料を求められることもあります。
なお、相続手続きの依頼を受けた行政書士は、法令の定める範囲内で職務上請求制度を利用し、戸籍を取得できる場合があります。
自分で戸籍収集を行うことが難しい場合には、そのような方法もあります。
広域交付制度により戸籍収集が便利になった
戸籍証明書等の広域交付制度により、本籍地以外の市区町村窓口でも戸籍証明書等を取得できるようになりました。
以前は本籍地ごとに請求する必要がありましたが、現在は最寄りの市区町村窓口で取得できる場合があります。
本籍地が遠方にある方にとっては、戸籍収集の負担を軽減できる制度と言えるでしょう。
もっとも、請求できる方や対象となる戸籍には制限があります。
また、兄弟姉妹が相続人となるケースなどでは、広域交付だけですべての戸籍が揃うとは限りません。
利用できるかどうかを事前に確認しておくと安心です。
死亡届を提出してもすぐには戸籍は取得できない
死亡届を提出した後、すぐに死亡の記載が入った戸籍が取得できるわけではありません。
戸籍への反映には一定の時間がかかります。
そのため、葬儀後すぐに請求しても、必要な戸籍がまだ取得できないことがあります。
いつ頃反映されるかは自治体によって異なるため、あらかじめ市区町村へ確認しておくと安心です。
戸籍請求書はホームページからダウンロードできる
戸籍は窓口だけでなく郵送でも請求できます。
多くの市区町村では請求書をホームページで公開しています。
また、必要事項が記載されていれば、手書きの請求書でも受け付けてもらえる場合があります。
遠方の本籍地に請求する場合は、事前にホームページで必要書類を確認しておくとスムーズです。
マイナンバーカードがあればコンビニで取得できることも
マイナンバーカードをお持ちの場合、住民票や印鑑登録証明書、戸籍証明書などをコンビニで取得できることがあります。
自治体によっては窓口より手数料が安く設定されている場合もあります。
また、平日の開庁時間に役所へ行くことが難しい方にとっても便利な制度です。
ただし、本籍地の自治体が対応しているかどうかなど、利用条件があります。
利用できるかどうかを事前に確認しておくとよいでしょう。
戸籍収集そのものよりも「準備不足」の方が時間を失う
戸籍収集というと、「役所へ行って戸籍を取得する作業」と考えがちです。
しかし実際には、戸籍収集そのものよりも、必要な戸籍や今後の流れを把握しないまま動いてしまうことの方が時間を失う原因になります。
例えば、
- 死亡の記載が反映される前に請求する
- 本籍地が遠方なのに広域交付や郵送請求を検討していない
- 必要な戸籍の範囲を把握していない
といった場合、何度も役所へ足を運ぶことになるかもしれません。
自分で戸籍収集を行う場合は、「どの戸籍を取得する必要があるのか」「どこへ請求するのか」を整理してから動くことで、役所へ行く回数を減らせることがあります。
印鑑証明書は早く取得し過ぎない
相続手続きでは印鑑証明書も必要になります。
ただし、印鑑証明書については発行後3か月以内などの期限が設けられていることがあります。
そのため、相続が発生した直後に取得すると、戸籍収集や財産調査、遺産分割協議に時間がかかり、提出時には取得し直しが必要になることもあります。
戸籍収集を進めながら、
「そろそろ遺産分割協議書へ押印できそうだ」
「金融機関へ提出できそうだ」
という段階で取得した方が、余計な手間を避けられる場合があります。
必要書類は、早く集めれば良いというものではありません。
いつ使う書類なのかを考えながら準備することも大切です。
おわりに
相続手続きでは、まず戸籍によって相続人を確定し、その後に遺産分割や名義変更へ進んでいきます。
預貯金の解約や相続登記を急ぎたくなる気持ちはよく分かりますが、その前提となる戸籍収集が終わらなければ手続きを進めることはできません。
少し遠回りに見えるかもしれませんが、戸籍収集は相続手続きの土台となる大切な作業です。
必要な戸籍を把握し、効率よく収集することができれば、その後の手続きもスムーズに進めやすくなるでしょう。
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